(side リョーマ)
「・・・・・・・・・そうっスね」
俺は力なく答えた。
昼休み副部長に会って、俺は桃先輩への気持ちを新たにした。
攻めた方がいいのかも知れない・・・
それなのに見かけた桃先輩は、英二先輩の肩をガシッと掴み、その勢いは・・・
もし副部長が英二先輩に話しかけなかったら、告白していたんじゃないだろうか?
そう思うぐらいだった。
さっき聞いた女子への告白といい・・・英二先輩といい・・
何やってんの桃先輩・・・?
俺のイライラはすぐに頂点に達して、目の前の桃先輩の顔もまともに見れず、副部長と英二先輩に八つ当たりをして、結局は・・・・
『だいたい・・・それこそお前に関係ねぇだろ』
冷めた目で突き放された・・・・
「あぁ・・・暑い・・・・・」
帽子のつばを上げて、腕で汗を拭うと俺はラケットを握りなおした。
結局あの後、気まずい雰囲気のままチャイムがなって、俺達はそれぞれクラスに帰って行った。
だから何も解決なんてしていない。
イライラも・・・胸に痞えた想いも・・・
何も・・・
だけど・・・だからと言って桃先輩と話して何かを解決する気にもなれなくて、俺は桃先輩を避けていた。
部活もギリギリに出て、今も桃先輩の視線は感じるけど・・気付かないフリをした。
話した所でどうしていいかわからない。
だいたい・・・あれを喧嘩と言っていいかもわからないし・・・
だから仲直りというのも何だか変な気もするし・・・
それに何よりも・・・『お前には関係ねぇだろ?』
あんな風に突き放されて、言う事なんて何もないじゃないか・・・
「次は誰だったっけ・・・?」
回らない頭でコートに入る。
こんな状態でも練習はしなきゃいけない。
自分に言い聞かせるように前を向くと、相手コートに入ってきたのは桃先輩だった。
えっ?桃先輩?
桃先輩はコートに入ると、俺を見据えるようにラケットを構えた。
・・・・どうして桃先輩が・・・?
俺はその姿に動揺しながらも、ゆっくりとベースラインの外に出た。
確か次は英二先輩だったような・・・・
乾先輩が考えた練習メニューを思い出そうとしながら顔を上げると、そこにはボールを持った副部長が立っていた。
あっ・・・・
「越前行けるか?」
「・・・はい」
「でも調子が悪いなら早く言えよ。無理はしなくていいからな」
「大丈夫っス」
ボールを受け取り、帽子のつばを下げながらコートの外に目を向けると英二先輩が手を振っている。
そういう事・・・
俺は相手コートの桃先輩へと目線を向けた。
ラケットを右に持ち替えてツイストサーブ
俺の打球はコートに入ると、桃先輩の頬を掠めて飛んでいった。
だけど・・・この1球だけだった。
後は面白いぐらい返された。
ラリーが続いてポイントを取られる。
コートチェンジの時に桃先輩に話しかけられた。
「もっと本気だせよ」
・・・そんな事を言われても・・・・・
副部長も英二先輩も俺と桃先輩を戦わせる事で、昼間出来てしまった気まずさを失くそうと考えたのかも知れない。
桃先輩も・・・それに乗ったのかもしれない・・・
俺だって・・・・そう出来たら・・・
そう思ったけど、いつものような集中力が出せない。
体が反応しない。
本気を出したくても・・・・出せないんだ・・・
「「「危ない!!!!」」」
みんなの声に我に返ると、桃先輩が打ったダンクスマッシュがコートにバウンドして俺の顔面めがけて飛んできていた。
「うわっ!」
避け切れなかった。
桃先輩のボールは見事に俺の顔面にヒットしてその反動で倒れ込む。
あぁ・・・最悪・・・
スローモーションのように流れる景色の中に、桃先輩がラケットを投げ出して一目散に俺の元に走ってくるのが見えた。
「越前っ!!!」
「おい!大丈夫か越前!目を開けろ!おい!しっかりしろよ!」
体を揺すられながら、頭の上で大きな声がする。
「桃っ!揺すっちゃ駄目だって!」
「だって英二先輩・・俺・・・」
「桃・・・気持ちはわかるが、今は兎に角落ち着いて、安静にするのが一番だから
あと誰か何か冷やすものをスグに持ってきてくれ!」
あぁ・・・桃先輩と副部長と英二先輩か・・・・
俺はゆっくり目を明けた。
「あっ!目明いたっスよ先輩!
おい!大丈夫か越前っ!しっかりしろ!見えてるか!」
桃先輩が覆いかぶさる様に俺を覗き込む。
桃先輩・・・近すぎ・・・・それに煩い・・・
「だから桃!落ち着けって!」
そんな桃先輩に英二先輩がチョップした。
「痛っ!何すんすか先輩!」
「桃は煩すぎ!」
一体何なんだ・・・この二人・・・
二人がギャーギャーと騒ぎだした横から、今度は副部長が覗き込んだ。
「大丈夫か越前。俺が誰かわかるか?」
「・・・・・副部長」
「よし。見えてるようだな。体は動かせそうか?」
あぁ・・・そうだった・・・俺ボールが当ったんだった・・・
俺はその言葉に手をついて、起き上がろうとした。
だけど力が入らない。
駄目だ痛い・・・ジンジンする・・・
「わかった。越前。そのままでいい」
副部長は俺を制止すると、顔を上げた。
「越前を保健室に移動させた方がよさそうだな」
「あっじゃあ俺が連れて行くっス!俺、力あるし!」
えっ・・・・?
「そうそう桃は、馬鹿力だけが取り柄だもんね」
桃先輩が俺を・・・・?
「酷いな〜英二先輩。馬鹿は余計でしょ?」
「ホントの事じゃん!ニャハハハハ」
「ちぇっ・・そりゃないっスよ」
「こらこら二人とも越前は怪我人だぞ・・・あまり騒ぐなよ。
兎に角すぐ移動した方がいい。桃。いけるか?」
・・・・・・嫌だ。
「もちろんっス。任せて下さい」
絶対・・・・・嫌だ。
「ねえ・・・副部長」
俺は縋るように副部長の腕を掴んだ。
「ん?どうした越前」
3人が一斉に俺を見る。
「副部長がいい・・・」
「えっ?俺?」
驚いた副部長が俺を見た後、英二先輩と桃先輩を順番に見た。
見られた桃先輩が俺に詰め寄る。
「何だよ越前。俺が連れて行ってやるって言ってるだろ?」
「・・・副部長がいい」
「なっ・・・」
言葉を詰まらせた桃先輩の肩を副部長が叩く。
「わかった。俺が連れて行く。桃と英二は練習に戻ってくれ」
「大石・・・」
「英二。後は頼む」
「・・・わかったよ大石」
英二先輩は副部長とアイコンタクトを取ったかと思うと、桃先輩の腕を引いて立たせた。
桃先輩は無言で立ち上がる。
副部長はその姿を確認するように見て、俺へとまた顔を向けた。
「越前。少し恥ずかしいかもしれないが、保健室まで我慢しろよ」
俺は小さく頷いた。
副部長は俺の腕と膝の下に手を入れて、軽々と抱上げる。
「よし。じゃあ行くか・・」
そしてゆっくり歩き出した。
保健室に着くと副部長は手馴れた手つきで氷嚢を作ってくれた。
それをタオルに包んで、俺の頬にあてる。
「ほら越前」
「冷たっ!」
「これぐらい我慢しろよ。ちゃんと冷やさなきゃこれからどんどん腫れてくるからな」
「ういっス・・」
俺は素直に頷くと、窓の外を眺めた。
桃先輩どうしてる・・・かな・・?
副部長の肩越しに見た桃先輩の姿が頭から離れない。
ぐっと握り拳を作って、静かに地面を睨んでいた。
あんな桃先輩・・・見た事が無い・・・凄く怖かった。
俺が副部長に保健室に連れて行ってもらう事を頼んだから・・・怒ったのか・・・?
いや・・もし怒ったのだとしても・・・仕方ない・・・・
あんたは俺のこの気持ちを知らないんだ・・・
俺がどんな風にあんたを想っているか・・・
俺がどれだけ・・・
それなのにあんたは・・・
こんな気持ちの時に、二人きりになるなんて・・・俺には無理だ。
「なぁ越前・・・桃と・・・喧嘩してるのか?」
意識がすっかり外に飛んでいて、大石副部長がベッドの脇に立っているのを忘れていた。
急な質問に少し動揺しながら見上げる。
「えっ?」
「昼間にあった時も変だったが・・・さっきはもっと変だったぞ?」
「別に・・・喧嘩なんてしてないっスよ・・・」
そう喧嘩じゃない・・・喧嘩なら良かった・・・それなら仲直りすればいいから・・
でも、今のこの状態は俺の気持ちの問題で・・・そんな単純な事じゃないんだ。
「そうか・・・まぁ越前がそう言うならいいけど・・・あまり無理はするなよ。
仲直りするなら、早い方がいいんだからな」
副部長は肩を竦めて、俺の頭をポンポンと叩いた。
全然俺の言ってる事・・・信じてないし・・・それに・・・
だいたい人の心配するより・・・自分の心配をした方がいいんじゃないの?
副部長は背中を向けていたから気付いてないだろうけど・・・
桃先輩の横で英二先輩がじっと真っ直ぐあんたの背中見てたんっスよ。
俺が思わず目を逸らしてしまうぐらい・・・真っ直ぐに・・
「それより副部長の方こそ、後で英二先輩に怒られないっスか?」
「俺が?どうして?」
副部長が首を傾げる。
「俺の事お姫様抱っこしたって・・・拗ねたりしません?」
拗ねるぐらいで済めばいいけど・・・あの眼差しは何を意味するのか・・
「あぁ・・確かに少しぐらいはあるかもな。だけど本気で拗ねたりはしないよ」
「へぇ凄い自信っスね」
「まぁな・・・」
何でもお見通しって感じの副部長の態度が悔しくて、俺は副部長に英二先輩の話を持ち出したのに・・・
何だよ・・・全然余裕じゃん。
こんなに俺は悩んでるのに・・・あんた達は・・・
「さっ越前。俺はまた戻るけど、お前は練習が終わるまで安静だぞ。
終わればまた覗きに来るからな」
それなら・・・
「ねぇ副部長」
「ん?どうした?」
行きかけた副部長が振り向く。
「英二先輩やめにして、俺にしません?」
「なっ!・・・何!冗談言ってるんだ。からかうなよ・・・」
「冗談じゃないって言ったら?」
「えっ・・・・・・?」
あっ・・・固まった。
ちょっとふざけ過ぎたかな・・・
「・・・嘘っスよ」
そう言って副部長を見ると、副部長は真っ直ぐ俺を見据えていた。
「越前・・本当に今のが冗談じゃないとしたら・・・答えは・・・断るだ」
へぇ〜
「ハッキリ言うんっスね」
「当たり前だろ。今の俺には英二以外考えられないからな・・・」
「あっそう・・・」
ふ〜ん・・・・
結局のろけで返すなんて・・・八つ当たりした俺が馬鹿みたいじゃん。
「それに嘘なんだろ?」
「えっ?」
「兎に角・・・余計な事は考えないで、今はちゃんと冷やして寝てろよ。
じゃあ・・・後でな」
副部長は優しく微笑むと、背中を向けて保健室を出て行った。
副部長って・・・やっぱ侮れない・・・
久々の更新最後まで読んで下さってありがとうございますvv
今回はやさぐれリョーマ・・・大石に八つ当たり・・・だった訳ですが・・・どうでしたか?
そろそろ・・・向き合わなきゃですよね・・・
何とか次辺り・・・桃に頑張って貰いましょう・・・☆
2008.12.16